トランペットのミュートの種類

ここに挙げたミュート(弱音器)はほかの金管楽器とも共通するものもあるが、ここではトランペットに絞ってまとめた。 現代ではミュートは音量の抑制というより、音色の変化を目的として用いられている。 ミュートをつけても大きな音を出そうとすればいくらでもそれはできるから、という理由も併せてしばしば述べられる。 各ミュートの違いはスペクトル解析を施してそれぞれどのようなバンドパスフィルターの効果があるか調べられるのが望ましい。

ミュートの材質

アルミ製が最も一般的で、その次に銅製、これは銅の英語での表し方からコパー(copper)とも呼ばれる。 銅製はアルミ製よりもはるかに重量があり、アルミ製よりもより上品で重厚感のあるミュートのかかり方になる。 その他、籐製、木製、竹製、があるが、トランペットはもともと抵抗のある楽器のため、 弱音気を付けたままでは高音が出しにくく、このような材質のものが用意されている。 そのほかにはゴム製、プラスチック製なども存在する。 どの材質のものを使用するかは、奏者が最適なものを選択する。しかし一般的にはアルミ製である。

ミュートの種類

ストレート・ミュート(straight mute)

最も一般的なミュート。ほかのミュートに比べれば、このミュートのかかり方は、本来のトランペットの音色をまだよく残している方だといえる。 金属的な音。ppを出す目的で作られ、円錐形におおむね半球を足した形。

実演例:
performer:Marco Blaauw
performer:Brian Shook

作品例:

●ショスタコーヴィチ:ピアノとトランペットのための協奏曲, Op. 35―[opening]

(Shostakovich - Concerto in C minor for Piano and Trumpet, Op. 35)[opening](performer:Martha Argerich, piano. David Guerrier, trumpet)

冒頭部の数小節だが、印象的なので取り上げた。

●ドビュッシー:海―3つの交響的素描, 第3楽章―[31bar - 42bar][PN44]

Debussy: La mer, L. 109 - III. Dialogue of the Wind and the Sea (Debussy - La mer, L. 109 - Ⅲ. Dialogue of the Wind and the Sea)[31bar - 42bar][PN44](performer: Berliner Philharmoniker,orch Herbert von Karajan,cond)

旋律をミュートで強奏(フォルテ)。その後、à2での同じパッセージが続く。

●アンリ・トマジ:トランペットとオーケストラのための協奏曲(1948)―[PN5 3bar - FN of PN7]

(Henri Tomasi - Concerto for Trumpet and Orchestra (1948))[PN5 3bar - FN of PN7](performer:Giuliano Sommerhalder, trumpet)

しばらく管弦楽を背景にFgとTpの掛け合いがつづく。途中でsenza sordになるので、聞き分けてほしい。(このトマジの作品は次のbolミュートでも取り上げた)

これをつけたまま強奏する奇怪な音はクラシックではしばしば用いられた。

カップ・ミュート(cup mute)/スルディーヌ・ボル(sourdine bol)

ストレートミュートよりもさらに音色が柔らかくなり、こもったような感じになる。フランスでは"bol"と呼ばれている。

実演例:
performer:Marco Blaauw

作品例:

●アンリ・トマジ:トランペットとオーケストラのための協奏曲(1948)―[PN1 3-7bar]

(Henri Tomasi - Concerto for Trumpet and Orchestra (1948))[PN1 3-7bar](performer:Giuliano Sommerhalder, trumpet)

しばらくゆっくりとした抒情的な"bol"ミュートでの楽節が続く。

ハーマン・ミュート(Harmon mute)/ワウワウ・ミュート(wa-wa mute)

ハーマン(Harmon)社が作っていることからハーマンミュートとも呼ばれる。 短い円錐形に短い円柱がついており、その中心に指をパンの生地に貫通させたような孔がある。 その孔に、ストローにおちょこが付いたようなステム(英語で棒の意)差し込んだり、抜いたできるようになっている。 つまり、このミュートを指定す場合、この"ステム"の扱いを指示しなければならない。

  1. 抜いた状態(ステム・アウト)
  2. 差した状態(ステム・イン)
  3. 途中まで出した状態(ハーフ・ステム)
  4. 吹きながらステムを抜く、あるいは差す

シュトックハウゼンはステム・アウトの状態をハーマンミュート、ステム・インの状態をワウワウミュートとしてノーテーションを施した。

┗1.抜いた状態(ステム・アウト) (=ハーマン・ミュート)

音色:独特のビンビンいう罅割れた金属音。クラシッカーには馴染みがないかもしれないが、マイケル・デイヴィスはこのミュートを、ステムアウトの形で愛用した。 このようにジャズで多用されているが、クラシック由来のモダンスタイル(現代音楽)においては、また違った文脈で用いられている。

記譜法:音符の上に○をつける。これはいわゆるオープンの記号である。

実演例:
performer:Brian Shook
performer:Marco Blaauw
channel:A & G Central Music Inc

┗2.差した状態(ステム・イン)

音色:上記の金属音よりさらに遠くなったような、そして閉じた金属音。ステムを差したほうが穴は細くなるので、これは当然の理である。

記譜法:音符の上に+をつける。これはいわゆるキュイブレの記号である。

実演例:
performer:Brian Shook
channel:A & G Central Music Inc
performer:Mitsukuni Kohata

作品例:
●ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー―[PN2 bar1-3]

Rapsody in blue (comp:George Gershwin)[PN2 bar1-3](performer:performer:Slovak National Philharmonic Orchestra)

●ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー―[PN13 bar3-5]
Rapsody in blue (comp:George Gershwin)[PN13 bar3-5](performer:performer:Slovak National Philharmonic Orchestra)

楽譜中にwa wa muteの指示。リンク先では、前者では掌での効果を付けず、後者においてはその効果を付して演奏されている。また後者は、Tpによるwa-wa効果の後、Trbによるwa-wa効果が続く。

┗━2-a.差した状態で孔を手で閉じたり開いたりする

あまりにも残念賞やジャズの滑稽味と結びつきすぎた音色ではあるが、その文脈から離れ、 クラシック由来のモダンスタイル(現代音楽)でも用いられることがたまにある。

記譜法:シュトックハウゼンは[u-a]や[c-u]などと7段階に分けられた発音記号に基づき記した。しかし単にwa-wa-waとかかれることもある。

実演例:
channel:A & G Central Music Inc

┗3.途中まで出した状態(ハーフ・ステム)

より金属の振動が感じられるかなりに罅割れた音になる。金属製のステムが振動している。

記譜法:それとわかるように指示する

実演例:
performer:Mitsukuni Kohata

┗4.吹きながらステムを抜く、あるいは差す

狭い金属音から、広い金属音へ、そしてその逆。

記譜法:
+ ──────→ ○ (抜く場合)
○ ──────→ + (差す場合)

実演例:
performer:Marco Blaauw

作品例:

●K.Sakai:ヴァイオリン協奏曲"G線上で"(2012)

Violin Concerto on the G string(comp:K.Sakai)[p12 bar14 Tp1](Performer: Artiom Shishkov (violin) & National Orchestra of Belgium Conductor: Gilbert Varga)

●K.Sakai:ヴァイオリン協奏曲"G線上で"(2012)

Violin Concerto on the G string(comp:K.Sakai)[p15 bar31 Tp3](Performer: Artiom Shishkov (violin) & National Orchestra of Belgium Conductor: Gilbert Varga)

前半部で目立たない形でしばしば繰り返し用いられている。 複雑な音響下でもordinaryの響きを避け、溶け合いつつも、小楽節の始まりや終わりを暗示する効果が見込める。 また、後者のように相いれにくい楽器同士でも、音色が融合する。

シンク・プランジャー

開放したまま、トイレのつまりを直す先端のゴムでできたお椀のようなものを片手で朝顔に充てたり話したりする。 開放状態でのwa-waが可能になる。ワウワウミュート付けてするより、より開放的で明瞭なwa-waになる。 この"ミュート"のよいところは、演奏しながらミュートをつけたり外したりできることである。 なお、このミュートを持っているとき、glowlというflatterと同義の効果を付けてしばしば演奏される。

実演例:
performer:Brian Shook


参考資料:
Wikipedia(英語版) ミュート記事のブラス項目
池端伸之著「トランペットミュート」
ネイサン・プラント著「モダン・トランペット」


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